ヘルスケア論文研究室
睡眠医学

手術前夜のメラトニンパッチが睡眠の質を改善――泌尿器科手術を対象としたランダム化比較試験

📄 The effect of preoperative melatonin patches on sleep quality in patients undergoing urological surgery.

✍️ Toprak, Ç., Akinci, N., Akok, S.A.

📅 論文公開: 2026年

メラトニン 睡眠の質 手術前ケア 経皮吸収パッチ 心理的ウェルビーイング

3つのポイント

  1. 1

    手術前夜にメラトニンパッチを貼った患者群は、貼らなかった群に比べて睡眠の質が有意に向上しました。

  2. 2

    メラトニンパッチの使用は、手術前の心理的な安心感(ウェルビーイング)の改善にもつながりました。

  3. 3

    経皮吸収型(貼るタイプ)のメラトニンという新しい投与方法の有効性を示した研究です。

論文プロフィール

  • 著者: Toprak, Ç. / Akinci, N. / Akok, S.A.
  • 発表年: 2026年
  • 掲載誌: Revista da Associação Médica Brasileira
  • 調査対象: イスタンブールの大学病院泌尿器科に入院した手術予定患者57名
  • 調査内容: 手術前夜に経皮吸収型メラトニンパッチ(7mg)を貼付することで、睡眠の質と心理的ウェルビーイングが改善するかを検証

エディターズ・ノート

「手術の前夜、不安でなかなか眠れなかった」という経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか。睡眠薬に頼らず、体に貼るだけで睡眠の質を高められる可能性を示した本研究は、手術を控えた方だけでなく、ストレスで眠りにくい夜を過ごすすべての方にとってヒントになるかもしれません。

実験デザイン

本研究は、 ランダム化比較試験 として設計されました。

対象と方法

泌尿器科手術を予定している57名の患者を、無作為に2つのグループに振り分けました。

  • メラトニン群: 手術前夜の午後11時に、暗く静かな部屋で7mgのメラトニンを含む経皮吸収パッチを貼付
  • 対照群: 特別な介入なし(通常のケアのみ)

測定方法

睡眠の質は「リチャーズ・キャンベル睡眠スケール(RCSQ)」、心理的な状態は「視覚的アナログスケール(VAS)」というウェルビーイング評価で測定しました。

メラトニン群と対照群の睡眠の質の比較(概念図:実際のスコア差の方向性を示しています) 0 16 32 48 64 80 睡眠の質スコア(相対値) 80 メラトニン群 40 対照群
メラトニン群と対照群の睡眠の質の比較(概念図:実際のスコア差の方向性を示しています)
項目 睡眠の質スコア(相対値)
メラトニン群 80
対照群 40
メラトニン群と対照群の睡眠の質の比較(概念図:実際のスコア差の方向性を示しています)

結果

  • メラトニン群の睡眠の質スコアは、対照群に比べて統計的に有意に高い結果となりました(p < 0.001)。
  • さらに、メラトニン群ではパッチ貼付前後で心理的ウェルビーイングのスコアも有意に改善しました(p < 0.001)。
🔍 経皮吸収パッチとは? 飲み薬との違い

メラトニンといえば、サプリメントとして「飲む」タイプが一般的です。しかし、飲み薬は胃腸で分解される過程で一部が失われたり、効果の発現タイミングにばらつきが生じたりすることがあります。

経皮吸収パッチ(貼り薬)は、皮膚から直接血中にメラトニンを送り届ける仕組みです。これにより、以下のようなメリットが期待されます。

  • 胃腸を経由しないため、消化器系への負担が少ない
  • 成分が少しずつ安定的に吸収されるため、効果が持続しやすい
  • 飲み忘れのリスクが少ない

ただし、皮膚のかぶれやアレルギー反応には注意が必要です。

🔍 この研究の限界について

この研究を解釈する際には、いくつかの注意点があります。

  • サンプルサイズが小さい: 57名という規模は、結果の一般化には慎重になる必要があります。
  • プラセボ (偽薬)群がない: 対照群は「パッチを貼らない」グループであり、「メラトニンを含まないパッチを貼る」グループではありません。そのため、「パッチを貼ったこと自体」による安心感の影響を完全に排除できていません。
  • 単一施設での実施: イスタンブールの1つの大学病院での結果であるため、他の地域や施設にそのまま当てはまるかは検証が必要です。

日常への活かし方

この研究は手術前という特殊な状況での結果ですが、「緊張や不安がある夜にメラトニンが睡眠の質を助ける可能性がある」という点は、日常生活にも示唆を与えてくれます。

取り入れられるかもしれないヒント

  1. 大事な予定の前夜に、メラトニンを活用してみる 大切なプレゼンや試験の前夜など、緊張で寝つきが悪くなりそうなときに、メラトニンサプリメントが選択肢の一つになるかもしれません。ただし、日本ではメラトニンは医薬品扱いのため、使用にあたっては医師への相談をおすすめします。
  2. メラトニンの自然な分泌を助ける環境づくり この研究でも「暗く静かな部屋」でパッチを貼付しています。サプリメントに頼らなくても、就寝前にスマートフォンやテレビの強い光を避け、部屋を暗くすることで、体内のメラトニン分泌を促すことができます。
  3. 「貼るタイプ」の睡眠サポートという選択肢を知っておく 将来的に経皮吸収型のメラトニン製品が普及すれば、飲み薬が苦手な方にとって新たな選択肢になる可能性があります。
🔍 メラトニンを自然に増やすための生活習慣

メラトニンは私たちの体内で「暗くなると分泌が増える」ホルモンです。以下のような習慣が、自然なメラトニン分泌をサポートするといわれています。

  • 朝の太陽光を浴びる: 朝に明るい光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜のメラトニン分泌リズムが整います。
  • 就寝1〜2時間前からブルーライトを控える: スマートフォンやパソコンの画面が発するブルーライトは、メラトニン分泌を抑制することが知られています。
  • トリプトファンを含む食品を摂る: バナナ、牛乳、大豆製品などに含まれるトリプトファンは、メラトニンの原料となるセロトニンの材料です。

こうした生活習慣の見直しは、特別な製品を使わなくても始められる点が魅力です。

なお、この研究は泌尿器科手術を控えた患者さんを対象としており、健康な方の日常的な睡眠改善にそのまま当てはまるとは限りません。メラトニンの使用を検討される場合は、かかりつけ医にご相談ください。

読後感

手術前の不安な夜に限らず、私たちは日常のさまざまな場面で「今夜はしっかり眠りたいのに眠れない」と感じることがあります。

この研究は、メラトニンという体内にもともと存在する物質を外から補うことで、睡眠の質だけでなく心理的な安心感まで改善できる可能性を示しました。

あなたが「眠れない夜」を過ごすとき、まず試せることは何でしょうか? 部屋を暗くする、画面を見る時間を減らす――小さな一歩から、睡眠との付き合い方を見直してみてはいかがでしょうか。