「くすぶる炎症」とがんリスク — 18,933人を13年追跡したMoli-sani研究
📄 A Composite Low-Grade Inflammation Score and Cancer Outcomes: Results from the Moli-sani Study.
✍️ Costanzo, S, Di Castelnuovo, A, Bonaccio, M, Magnacca, S, Panzera, T, De Curtis, A, Bracone, F, Martinelli, G, Parisi, R, Cerletti, C, Donati, MB, de Gaetano, G, Iacoviello, L
📅 論文公開: 2026年1月
3つのポイント
- 1
イタリアの大規模コホート約1.9万人を約13年追跡し、血液検査から算出した「低レベル炎症スコア(INFLA-score)」が高い人ほどがん関連入院や大腸がんが増えることが示されました。
- 2
とくに大腸がんでは、INFLA-scoreが最も高い群のリスクが他の群と比べて約1.68倍と顕著に高い結果でした。
- 3
自覚しにくい「くすぶる炎症」が将来のがんリスクの指標になり得ることが示唆され、炎症をためない生活習慣の重要性が改めて確認されました。
論文プロフィール
- 著者: Costanzo, S / Di Castelnuovo, A / Bonaccio, M ほか(イタリア・Moli-sani研究グループ)
- 発表年: 2026年(オンライン公開)
- タイプ: 前向き コホート研究 コホート研究 特定の集団を長期間追跡し、要因と疾患発症の関連を調べる観察研究デザイン。
- 調査対象: イタリア・モリーゼ州の住民 18,933人(35歳以上、女性51.8%、登録時にがん・慢性炎症性疾患・血液疾患なし)
- 調査内容:
- 血液検査値から算出する「低レベル炎症スコア(INFLA-score)」を測定
- 約13.1年の追跡期間中、がん死亡・がん関連入院・大腸がん(CRC)の発生を記録
- スコアの5分位(最も低い1〜4分位 vs 最も高い5分位)ごとに、発生リスクを比較
エディターズ・ノート
「炎症」と聞くと、熱や腫れを伴う一時的な反応を思い浮かべるかもしれません。しかし、自覚症状なく体内で静かに続く「くすぶる炎症(低レベル炎症)」が、長期的に心血管病やがんと関わる可能性が近年注目されています。本研究は、ヨーロッパで実施された大規模な追跡調査から、その関連を具体的な数字で示した一本であり、私たちが「生活習慣を整える意味」を改めて考えるうえで参考になると考えお届けします。
実験デザイン
本研究は約1.9万人を平均13年間追跡した前向きコホート研究で、複数の血液検査値(CRP、顆粒球/リンパ球比、白血球数、血小板数)を組み合わせた INFLA-score を、体の中でくすぶる炎症の度合いを示す バイオマーカー バイオマーカー 血液検査値や遺伝子情報など、健康状態や疾患リスクを客観的に測定可能な生物学的指標。 として用いました。
追跡期間中に観察されたイベント数は次のとおりです。
- がん死亡: 612件
- がん関連入院: 1,854件
- 大腸がん(CRC): 287件
INFLA-scoreが最も高い群(上位5分位)と、それ以外(下位1〜4分位)を比較したハザード比(HR)は以下のように報告されています。
| 項目 | ハザード比(最上位群 vs その他) |
|---|---|
| がん死亡 | 1.19 |
| がん関連入院 | 1.21 |
| 大腸がん | 1.68 |
がん関連入院(HR 1.21、95%CI: 1.08–1.34)と大腸がん(HR 1.68、95%CI: 1.30–2.18)は統計的に有意な関連が認められました。一方、がん死亡(HR 1.19、95%CI: 0.99–1.44)は信頼区間が1をわずかにまたいでおり、関連の傾向は見られるものの確定的ではありません。これらの関連は、年齢・性別・喫煙・食事・運動といった生活習慣や、既存の慢性疾患を統計的に調整しても残りました。
🔍 INFLA-scoreとは何か
INFLA-scoreは、健康診断などでも測定される4つの血液マーカーを組み合わせて算出される、体内の「低レベル炎症」を示す合成指標です。
- CRP(C反応性たんぱく): 体内で炎症が起きると肝臓で増えるたんぱく質。
- 顆粒球/リンパ球比: 白血球の構成バランスの乱れを示す指標。
- 白血球数・血小板数: 慢性的な免疫活性化や血管炎症の指標。
これらを組み合わせることで、単独のマーカーよりも安定して「くすぶる炎症」の状態を捉えやすくなると考えられています。
🔍 サブグループでの違い
本研究では、関連の強さがグループによって異なる傾向も観察されています。
- がん死亡・がん関連入院: 高齢の方やがんの家族歴がある方で関連がより強く見られた(ただし交互作用は統計的に有意ではない)。
- 大腸がん: 女性でより明確な関連が見られた。
- がん死亡と体格: 標準体重・過体重の人で関連が見られた一方、肥満の人では明確な関連が見られなかった(P for interaction = 0.039)。肥満ではすでに別の経路でリスクが高まっている可能性が考察されています。
日常への活かし方
この研究を踏まえると、私たちの日常では「自覚症状のない、くすぶる炎症をためない」ことが、長期的な健康戦略として意味を持ちそうだと考えられます。ただし、本研究は 「炎症が高い人にがんが多かった」という関連を示したものであり、「炎症を下げればがんが必ず防げる」と証明したわけではない点には注意が必要です。
そのうえで、日々取り入れやすいヒントを3つご紹介します。
- 健診の血液データを「炎症の視点」でも眺める: 多くの健診で測定されるCRPや白血球数は、体内の炎症レベルを知るヒントになります。基準値内であっても、年々上昇傾向にないか確認してみるとよいかもしれません。
- 食事を整える: 野菜・果物・全粒穀物・魚・オリーブオイルといった、地中海食に代表される食事パターンは、炎症マーカーが低めの方に多いことが各種研究で報告されています。極端な制限ではなく、加工食品や過剰な飽和脂肪・糖質を「少し減らす」ところから。
- 動く・眠る・吸わない: 適度な身体活動・十分な睡眠・禁煙はいずれも、慢性炎症を抑える方向に働きやすいことが知られています。
なお、本研究はイタリアのモリーゼ州という特定地域の住民を対象としており、食習慣や生活環境が異なる集団でもまったく同じ結果が得られるとは限りません。この結果がすべての人に当てはまるとは限らないことを前提に、ご自身の体質や持病に合わせて取り入れていただくのがよいでしょう。
🔍 この研究の限界
本研究は大規模かつ長期の追跡という強みがある一方で、いくつかの限界もあります。
- 観察研究である: 炎症スコアとがんの「関連」を示したものであり、「炎症ががんを引き起こした」という因果関係を直接証明したものではありません。
- 炎症スコアは1時点の測定: 登録時点の血液値に基づいており、その後の変化は反映されていません。
- 集団の特性: イタリアの地域住民が対象であり、人種・食文化が異なる集団への一般化には注意が必要です。
これらを踏まえ、本記事の内容は「炎症を意識した生活習慣の参考材料」として位置づけるのが適切です。
読後感
熱もなく、痛みもない。それでも体の内側で静かに続いている「炎症」が、十数年先のがんリスクと結びついている可能性がある——そんな少し背筋が伸びるような研究でした。あなたが昨日食べたもの、昨夜眠った時間、今朝歩いた歩数は、10年後の体に向けた小さな投票になっているのかもしれません。次の健診結果が届いたら、ぜひ「炎症」の視点でも眺めてみませんか。