目の注射を繰り返す人のドライアイ症状は、人工涙液の併用で和らぐ可能性がある
📄 Short-term adjunctive use of a liposomal tear substitute after repeated intravitreal therapy: a randomized pilot study.
✍️ Cagini, C, Messina, M, Fiore, T, Chiruzzi, ML, Frenguelli, M, Crescenzi, L, Poddi, M
📅 論文公開: 2026年1月
目の注射を続ける人には、人工涙液の併用が症状を和らげる選択肢になりうる
- 1 硝子体注射を繰り返す50歳超の90人を2群に分けて比較した
- 2 点眼を足した群でDEQ-5が9.28から8.00へ下がった
- 3 15日間の小規模試験で、長い期間の効果はまだ分からない
目薬を加えた群のドライアイ症状スコア(DEQ-5)の変化
論文プロフィール
- Cagini らによる研究で、2026年に眼科の国際誌 International Ophthalmology に掲載されました。
- 対象は、加齢黄斑変性などの網膜の病気で、抗VEGF薬(血管の異常な増殖を抑える薬)を目の中に注射する治療を繰り返し受けている50歳を超える患者さん90人です。
- 通常の治療だけを受ける群と、通常の治療に目薬(人工涙液)を加える群に分け、ドライアイに似た症状や所見が減るかを調べました。
- 使われた目薬は、架橋ヒアルロン酸・トレハロース・ステアリルアミンを含む、リポソーム(ごく小さな脂質の粒)を使った点眼液です。
エディターズ・ノート
加齢黄斑変性の治療では、目の中への注射を数か月おきに長く続けることが少なくありません。視力を守るための治療が、目の乾きやごろつきといった日々の不快さにつながっているのなら、そこへの手当ても生活の質に関わります。治療を受けるご本人やご家族に知っていただきたい研究として取り上げました。
実験デザイン
この研究は、参加者をくじ引きのように2つの群へ振り分ける ランダム化比較試験 ランダム化比較試験 参加者を無作為に介入群と対照群に割り付けて効果を比較する実験デザイン。エビデンスレベルが最も高い研究手法の一つ。 です。本格的な試験の前に行う、規模の小さい予備的な試験(パイロット研究)と位置づけられています。
- 参加者: 抗VEGF治療が必要な加齢黄斑変性などの網膜の病気がある90人(50歳超)
- 群1(通常の治療のみ): 45人(男性20人、女性25人)
- 群2(通常の治療に目薬を追加): 45人(男性18人、女性27人)
- 測定の時点: 開始時(V0)と15日目(V1)。30日目に電話で OSDI を再確認
測定したのは、涙の膜が壊れるまでの時間(TBUT)、涙の量(シルマー試験)、目の表面の傷を染色で見る検査、そして症状を尋ねる2種類の質問票(OSDI と DEQ-5)です。
結果。 群1では、DEQ-5 の点数は 10.89 ± 2.71 から 10.57 ± 2.60 と、はっきりした変化は見られませんでした(p = 0.173)。一方、群2では 9.28 ± 3.24 から 8.00 ± 3.64 へと下がり、統計的に意味のある差でした(p < 0.0001)。
OSDI の点数も、群1では変化が見られなかったのに対し(p = 0.497)、群2では改善しました(p < 0.0001)。群2では TBUT とシルマー試験の値も改善しました(p < 0.0001)。反対に群1では、TBUT の値だけが有意に下がっていました(p = 0.026)。
著者らは、目への注射を長く続けることが目の表面に負担をかけており、通常の治療に人工涙液を加えることでその負担を和らげられると結論づけています。
| 項目 | DEQ-5 の平均点(点が低いほど症状が軽い) |
|---|---|
| 群1 開始時 | 10.89 |
| 群1 15日目 | 10.57 |
| 群2 開始時 | 9.28 |
| 群2 15日目 | 8 |
🔍 TBUT・シルマー試験・DEQ-5 とは何を測っているのか
ドライアイの評価では、「涙の状態」と「本人の感じ方」の両方を調べます。
- TBUT(涙液層破壊時間): まばたきのあと、目の表面を覆う涙の膜が崩れるまでの秒数です。短いほど涙が不安定で、乾きやすい状態です。
- シルマー試験: まぶたに細い紙を挟み、一定時間でどれだけ涙が染み込むかを測ります。涙の量の目安になります。
- OSDI と DEQ-5: 「目が乾く」「ごろごろする」「見えにくい」などの症状を本人に尋ねる質問票です。点数が低いほど症状が軽いことを示します。
この研究では、質問票の点数と、涙そのものの検査の両方で群2に改善が見られた点が特徴です。
🔍 この研究の限界
- 各群45人の小規模な予備的試験です。結果を確かめるには、より大きな試験が必要です。
- 目の検査は15日目まで、電話での確認は30日目までで、数か月から数年にわたって注射を続ける場合の効果は分かっていません。
- 要旨には、偽の目薬( プラセボ プラセボ(偽薬) 有効成分を含まない偽の治療。プラセボ効果とは、実際の薬理作用がなくても心理的要因により症状が改善する現象。 )を使ったかどうかや、評価する人が群分けを知らされていなかったかどうかは書かれていません。「目薬をさしている」という意識が質問票の答えに影響した可能性は残ります(要確認)。
- 開始時の DEQ-5 の点数は、群1が 10.89、群2が 9.28 と、群のあいだで差がありました。
- 使われたのは特定の成分を含む1種類の目薬で、ほかの人工涙液でも同じ結果になるとは限りません。
日常への活かし方
この研究を踏まえると、目の注射治療を続けている方やそのご家族には、次のような点を意識すると良いかもしれません。
- 目の乾きやごろつきを「治療だから仕方ない」と我慢しない。 注射を繰り返すと目の表面に負担がかかることを、この研究は示しています。不快な症状があれば、次の受診のときに眼科医へ伝えてください。
- 人工涙液を使ってよいか、眼科医に相談する。 注射の前後には感染を防ぐための点眼など、決められた手順があります。市販の目薬を自己判断で加える前に、使う時期や種類を主治医に確認すると安心です。
- 症状を簡単に記録しておく。 「注射のあと何日くらい乾きを感じるか」をメモしておくと、医師が対応を考える材料になります。
この研究は小規模で期間も短く、この結果がすべての人に当てはまるとは限りません。治療の内容は、経過をご存じの主治医の判断を優先してください。
読後感
視力を守るための治療と、毎日の目の心地よさは、どちらも生活の質につながっています。主な治療の陰に隠れがちな不快さに目を向けた点で、意味のある予備的な研究でした。
注射のあとに感じている目の違和感を、担当の医師に話したことはあるでしょうか。