筋力の「強い・弱い」は、体格と年齢を差し引いて測るべきかもしれない
📄 Normalization of muscle strength measures in barbell exercises by sex, age, and anthropometry: notes on allometry.
✍️ Isenmann, E., Geisler, S., Havers, T., Gavanda, S., Diel, P., Held, S., Flenker, U.
📅 論文公開: 2026年1月
3つのポイント
- 1
16〜64歳の393人を対象に、バーベル3種目の最大挙上重量を測定しました。
- 2
年齢・体重・身長が筋力を左右する要因として確認され、それらを差し引く新しい評価法が提案されました。
- 3
従来の「体重あたりの重量」より公平に、一人ひとりの筋力を比べられる可能性があります。
「あの人は自分より軽い体なのに、なぜ同じ重さを挙げられるのだろう」。
ジムでバーベルを握ったことがある方なら、一度は感じたことがあるかもしれません。筋力は、単純な「挙げた重さ」だけでは公平に比べられません。体格や年齢が大きく影響するからです。
今回ご紹介する研究は、その「差し引き方」を科学的に整理し、より公平に筋力を評価する枠組みを提案したものです。
論文プロフィール
- 著者: Isenmann, E. ほか 6 名
- 発表年: 2026 年
- 掲載誌: Scientific Reports
- 調査対象: 16〜64 歳の健康な成人 393 名(女性 197 名・男性 196 名)。トレーニング初心者からエリートのパワーリフターまで幅広く含む
- 調査内容: ベンチプレス(BP)、バックスクワット(SQ)、デッドリフト(DL)の 3 種目について、1 回だけ挙げられる最大重量(1-RM)を測定。あわせて年齢・身長・体重・腕や脚の長さなどの身体計測値を記録し、筋力との関係を分析
エディターズ・ノート
「体重あたり何キロ挙げられるか」は、ジムでもよく使われる筋力の目安です。しかし研究チームは、この従来のものさしが「一人ひとりの違いをうまくすくい取れていない」と指摘します。
体が大きい人が有利になりすぎたり、逆に不利になったり。この論文を届けたいのは、筋力を「他人と比べて落ち込む数字」ではなく、「自分の伸びを正しく測る数字」として捉え直すヒントがあるからです。
実験デザイン
研究チームは、女性 197 名・男性 196 名、合計 393 名を対象に、3 種目の 1-RM を測定しました。そのうえで、年齢・身長・体重・腕や脚の長さといった要因が、挙上重量にどれだけ影響するかを重回帰分析という手法で調べています。
分析の結果、年齢・体重・身長の 3 つが、3 種目すべてで筋力を左右する重要な要因として確認されました。
そこで研究チームは、これらの要因を差し引いて筋力を標準化する「z スコア」という指標を計算しました。z スコアは、同じような年齢・体格の人たちの中で自分がどの位置にいるかを示す物差しです。
🔍 z スコアとは何か(体格を差し引くものさし)
z スコアは、「集団の平均からどれだけ離れているか」を標準化して表す統計指標です。
- 0 なら、その年齢・体格の人たちの平均的な筋力
- プラスの値なら平均より強く、マイナスの値なら平均より弱い、という読み方をします
体重や身長で条件をそろえた「同じ土俵」の中で自分の立ち位置がわかるため、単純な挙上重量よりも、個人差を踏まえた比較ができるとされています。
一方で、研究チームはこの z スコアを「初級・中級・上級」といった段階(インターバル)に区切って分類しようとも試みました。しかしその結果、同じカテゴリーの中でも実力のばらつきが大きく、こうした区切り方は正確な筋力分類には向かないと結論づけています。
🔍 この研究の限界(そのまま鵜呑みにしない)
誠実にお伝えすると、この研究にはいくつかの前提があります。
- ある一時点で測定した横断的なデータであり、「トレーニングでどう変わるか」を追跡したものではありません。
- 対象は 16〜64 歳の健康な成人に限られます。高齢者や有疾患の方に、そのまま当てはまるとは限りません。
- 提案された枠組みは、主にスポーツ科学の研究や競技・リハビリの現場での活用を想定したもので、日常のジム利用者向けに簡単に使える道具として完成しているわけではありません。
日常への活かし方
この研究を踏まえると、私たちの日常では、筋力を「他人との単純な重量比べ」から少し離れて捉えると良いかもしれません。
- 体格や年齢の違いを前提に置く: 自分より体が大きい人が重い重量を挙げるのは、ある意味で自然なことです。年齢・体重・身長が筋力を左右することは、この研究でも確認されています。数字だけで落ち込む必要はないのかもしれません。
- 比べる相手は「過去の自分」に: z スコアの発想は、条件をそろえて公平に比べることにあります。日常のトレーニングでも、他人ではなく過去の自分の記録と比べることで、伸びを実感しやすくなります。
- 「体重あたり」の目安は万能ではないと知っておく: よく使われる「体重あたり何キロ」という指標も、実は個人差をすべてはすくい取れません。あくまで一つの目安として、幅を持って眺めるのが良さそうです。
ただし、この結果がすべての人に当てはまるとは限りません。対象は健康な成人であり、提案された評価法もまだ研究段階の枠組みです。日常のトレーニングの励みにする程度に、気軽に受け止めていただければと思います。
読後感
筋力の数字は、ともすれば「自分は強いのか弱いのか」という優劣の判定に使われがちです。けれどこの研究は、その数字の裏にある年齢や体格の違いを丁寧に差し引こうとしています。
あなたがバーベルやダンベルを握るとき、その重さは「誰か」と比べるためのものでしょうか。それとも、少しずつ変わっていく「自分自身」を映す鏡でしょうか。