糖尿病予防のカギは「自分のリスクを知る」こと──生活習慣との関係を研究から整理
「糖尿病を防ぐには何に気をつければいい?」という疑問に、大規模調査や臨床研究の知見から答えます。運動不足・腹部肥満・家族歴といったリスク要因と、日常で試せる予防の工夫を整理しました。
3つのポイント
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インドの45歳以上5万人超を調べた大規模調査では約半数が糖尿病の高リスクに該当し、運動不足と腹部肥満(おなか周りの脂肪)が主要なリスク要因として確認されています。
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中国で2型糖尿病患者574名を対象にした臨床試験では、医師と薬剤師がデジタルツールで連携して支えたグループで血糖の指標が改善し、専門家を頼る体制の効果が示唆されました。
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心臓・血管・代謝をまとめて捉える「心血管代謝ヘルス」という考え方が提唱されており、糖尿病予防は体全体のつながりの中で早めに取り組む価値がありそうです。
健康診断で「血糖値が高め」「糖尿病予備群」と指摘されると、「このままで大丈夫だろうか」「何から気をつければいいのだろう」と不安になる方は多いのではないでしょうか。糖尿病は自覚症状が出にくい一方で、生活習慣との関わりが深く、早めに手を打てる余地がある病気でもあります。
本記事では、糖尿病のリスク要因と予防の考え方を研究知見から整理し、日常で試しやすい工夫を一緒に考えていきます。扱うのはあくまで健康づくりの一環としての向き合い方であり、個別の診断・薬の選択・治療方針といった医療判断は扱いません。すでに糖尿病や予備群と診断されている方の治療については、主治医にご相談いただくことを前提にお読みください。
何がわかっているか
糖尿病の予防を考えるうえで参考になる研究は、(1) 誰がどんな要因でリスクを抱えやすいかを大規模に調べた調査、(2) 診断後の血糖管理を支える仕組みを検証した臨床試験、(3) 糖尿病を「体全体のつながり」の中で捉え直す医療の考え方という、異なる角度から蓄積されています。順に見ていきましょう。
自分の糖尿病リスクは「4つの要素」で見積もれる
インドの45歳以上の約半数が糖尿病の高リスク——大規模調査が示す生活習慣と地域格差
インドの45歳以上の約半数(46.3%)が、糖尿病の高リスク状態にあることが5万人超の大規模調査で明らかになりました。
まず、糖尿病のリスクが「どんな要素で決まるのか」を大規模に示したのが、インド全土の45歳以上52,063名(すでに糖尿病と診断された人は除外)を分析した調査です。この研究では、年齢・腹囲(おなか周りのサイズ)・身体活動量・糖尿病の家族歴という4項目からなる「インド糖尿病リスクスコア(IDRS)」を用いてリスクを評価したところ、対象者の46.3%が高リスクに該当し、低リスクはわずか4.5%にとどまったと報告されています。さらに、女性は男性より高リスクに該当するオッズが約2.26倍、都市部の住民は農村部より約1.62倍高いなど、性別や住環境による差も見られました。注目したいのは、ここで使われた4項目のうち、腹囲と身体活動量は生活習慣を通じて働きかけられる要素だという点です。ただしこれは一時点のデータを分析した横断研究であり、「その要因があったから糖尿病になった」という因果関係まで示したものではありません。IDRS自体もインド人集団向けに開発された指標で、そのまま日本人に当てはまるわけではない点にも留意が必要です。
専門家とデジタルの力を借りると、血糖管理は続けやすくなる
デジタルが支える医師と薬剤師のチーム医療、糖尿病管理の質を長期的に改善
医師と薬剤師がデジタルツールで連携する新しい糖尿病管理モデルの長期的な効果を1年間検証しました。
生活習慣の見直しは「一人ではなかなか続かない」ものでもあります。中国の6つの医療施設で2型糖尿病患者574名を対象に行われたクラスターランダム化比較試験では、医師による通常治療に加えて、薬剤師が対面指導とモバイルアプリを通じた遠隔サポートを組み合わせて支えたグループで、12か月後の血糖コントロール指標(HbA1c)が有意に改善したと報告されています。とくに、中心性肥満(おなか周りの肥満)がある人や心血管リスクの高い人で効果が大きい傾向が示されました。この研究の対象はすでに糖尿病と診断された人であり、発症前の「予防」を直接検証したものではありません。それでも、専門家を頼る体制やデジタルツールによる記録が自己管理を後押ししうるという知見は、リスクを抱える段階の生活習慣づくりにも通じる示唆といえます。なお中国の医療システムを前提とした研究であり、デジタルツールに不慣れな方に同じ効果が及ぶとは限らない点にも注意が必要です。
「臓器ごと」ではなく「体全体」で捉える予防
「メタボ」の先へ。心臓と代謝をまとめて守る新常識「心血管代謝ヘルス」とは?
肥満や糖尿病の増加に伴い心臓病のリスクも高まっていますが、従来の縦割り医療では対応が難しくなっています。
糖尿病は単独で存在するのではなく、高血圧や脂質異常症、心臓病などと深く絡み合っています。心臓・血管・腎臓・代謝(糖や脂肪の処理)をひとまとめに捉える「心血管代謝ヘルス」という考え方を提唱した論説では、糖尿病は内分泌科、心臓病は循環器科というように専門が分かれた縦割り医療では複雑な病態に対応しきれない、と指摘されています。そのうえで、病気になってから治すのではなく、生涯を通じた予防が重要だと強調されています。これは特定の集団を調べた実験研究ではなく、現状の課題と展望を論じた論説である点は踏まえておく必要がありますが、健康診断の数値を項目ごとにバラバラに見るのではなく「血糖値も血圧も体重も少し高め」といった重なりに注目する視点は、私たちの予防にもそのまま活かせます。
これらを通して見えてくるのは、糖尿病予防では「まず自分のリスク要因を知る」「腹囲や運動といった変えられる部分から手をつける」「専門家やツールを頼って続ける」「体全体のつながりで捉える」という流れが現実的だということです。一方で、ここで紹介した研究は横断研究や論説、海外集団を対象としたものが含まれ、日本人にそのまま当てはまるかや因果関係については、まだ慎重に受け止める必要があります。
日常で取り入れられる工夫
研究の知見から、日常で試しやすそうな工夫をいくつかご紹介します。すべてを一度に始める必要はなく、続けられそうなものから1〜2つ選ぶくらいで十分です。
おなか周りを定期的に測ってみる
複数の研究で、腹部の脂肪(腹囲)が糖尿病リスクの重要な指標として挙げられていました。体重だけでなくウエスト周囲径にも目を向けると、変化に気づきやすくなります。日本ではメタボリックシンドロームの基準として男性85cm・女性90cm以上が目安とされています。月に一度メジャーで測って記録するだけでも、生活を見直すきっかけになります。これは研究知見にもとづく一般的な目安であり、診断の代わりではありません。
日常の中に「動く時間」を少しずつ足す
大規模調査では、身体活動量の少なさがリスクスコアを押し上げる要因の一つでした。激しい運動でなくても、通勤で一駅分歩く、エレベーターの代わりに階段を使うなど、日常の中で「少し多く動く」工夫が積み重なります。まとまった運動時間が取りにくい方でも、こまめに体を動かす機会を増やすところから始めてみてはいかがでしょうか。
野菜やたんぱく質で食事の質を整える
心血管代謝ヘルスの考え方では、血糖・血圧・体重をまとめて整えていく視点が大切とされています。難しく考えず、いつもの食事に野菜をもう一品足す、といった小さな工夫から始めるだけでも近づけます。おなか周りが気になる方は、量よりも中身のバランスに目を向けてみると続けやすくなります。特定の食品だけに頼るのではなく、全体のバランスを意識するのがコツです。
アプリで血糖・体重・歩数を記録する
臨床試験では、モバイルアプリを通じた記録とサポートが自己管理を後押ししていました。スマートフォンの健康管理アプリで、体重や歩数、健診の数値などを記録してみましょう。数値の推移が見えると、強い意志に頼らなくても生活の変化に気づきやすくなります。記録は次の受診時に医師や薬剤師へ見せることで、より具体的な助言を受け取るための材料にもなります。
かかりつけ薬剤師など「頼れる専門家」を持つ
研究では、医師だけでなく薬剤師が連携して支える体制が血糖管理の改善につながっていました。薬局は薬を受け取るだけの場所ではなく、食事や生活習慣の相談にも応じてくれます。「最近、血糖値が気になるのですが」とお薬手帳を持って気軽に尋ねてみると、心強い味方が増えます。一人で抱え込まず、頼れる相手をつくっておくことが継続の支えになります。
逆に、「今日から完璧な食事と運動を続けなければ」と気負う必要はありません。年齢や家族歴のように変えられない要素もあります。まずは腹囲や運動、食事のうち取り組みやすいところから一歩を踏み出し、無理のない範囲で続けていくくらいの感覚がちょうど良いかもしれません。
専門家に相談する目安
糖尿病は初期には自覚症状がほとんどなく、生活習慣の見直しが役立つ一方で、背景に治療が必要な状態が隠れていることもあります。次のような場合は自己判断で様子を見続けず、専門家に相談することをおすすめします。「迷ったら相談していい」と気軽に捉えて構いません。
- 健康診断で血糖値やHbA1cの数値の指摘が続いている、または悪化している
- のどの渇き・多尿・体重の急な減少・強い疲労感など、気になる症状が続いている
- 家族に糖尿病の方が多く、自分のリスクが気になっている
- 高血圧・脂質異常症・心疾患などの持病があり、生活習慣を大きく変えようとしている
- 妊娠中・授乳中、あるいは高齢期など、ライフステージの変化と重なって食事や運動の調整に迷いがある
- 生活習慣を見直しても数値や体調の改善が実感できず、不安が続いている
受診先としては、まずはかかりつけ医に相談するのが現実的です。糖尿病の疑いが強い場合や治療が必要な場合は、糖尿病内科・内分泌内科が選択肢になります。会社員の方は産業医に、生活習慣の見直し方そのものを相談したい場合は地域の保健センターを活用するのもよいでしょう。本記事は研究知見の整理を目的としたものであり、医療判断の代わりにはなりません。気になる症状や検査値については、必ず医療機関での相談・診療をご検討ください。
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